「アウトソース」から「センター・オブ・エクセレンス」へと向かう、シスコ社の実験の旅。

2022/07/30 LPOノウハウ CROLPO

この記事は、CXLのブログに掲載された記事を翻訳したものです。翻訳元:「Cisco’s Experimentation Journey: From “Outsourced” to “Center of Excellence”

私Sandip Amlaniは、Cisco EMEAR(Europe、Middle East、Africa & Russia)のWebエクスペリエンスのマネージャーです。過去3年半、コンバージョンの最適化において、ビジネスとしての能力を向上させることに取り組んできました。

この記事では、世界96箇所に71,000人の従業員を持つ510億ドル企業で実験を行ってきた物語を紹介します。

ツールからユーザーへと、我々の注力箇所を移行する

他の多くのビジネスと同様、データドリブンになる前は、特定のツールに依存し、それが顧客体験の悩みの全てを解決できるものであると、我々は盲目的に信じていました。

我々が新しいマーケティングオートメーションのツールを導入し、マーケティングチームが様々な言語でフォームやランディングページを作成できるようになったケースなどが、これに該当します。ユーザー体験を向上させるのではなく、ツールを持つことが目的となってしまったと言えます。

ユーザーインタビューやユーザービリティテストを行った後、ユーザーがこれらのフォームに深刻な問題を抱えていることに気が付きました。フォームのテンプレートには、商品を説明するいくつかの箇条書きと画像しか含まれていませんでした。

ユーザー行動を分析したところ、12%のユーザーが、クリックできない画像をクリックしていたことがわかりました。これは、追加の情報を探している、もしくは、不満を感じているゆえの行動です。また、「このフォームが何のためのフォームであるかわからないため、詳細を入力したくない」、というユーザーの声もありました。

我々は、このフォームが非常に素晴らしく、拡張可能であり、より多くの問い合わせを生み出すものであると考えていましたが、顧客は全く別の感覚を抱いていることに気が付き始めました。

そのため、我々はテストを行うことにしたのです。我々は製品に関する動画とテスティモニアルを追加し、ユーザーがページをスクロールするのに合わせて表示される、固定式のフォームも加えました。また、ページのコンテンツとフォームを区分するために、よりはっきりとしたコントラストも加えました。こうした変更のおかげで、フォームの送信数が42%増加し、副次的な指標も改善しました。


≪変更前≫


≪変更後≫

簡単であるから、すでにそのプロセスやツールがあるから、といった理由で物事を進めてはいけないということに気が付きました。まず、我々はユーザーのウォンツとニーズを理解し、そして、それらを実現する方法を考えなければならないのです。

実際のユーザーから直接話を聞いたり、さらには、ユーザーがどの箇所で苦労しているかをセッションのリプレイで見たりすることが、非常に効果的です。


■役に立つリソース

A/Bテストのチュートリアル:初心者から上級者まで
ユーザー調査の文化を築く方法
ユーザーインタビューの実行とデータの分析のためのガイド
顧客ロイヤリティを高める仕組み
顧客を本当に大切にする企業になるために

※訳注:リンク先は全て英文です。

最適化は、誰のためのものなのか?


CROのアウトソーシング(スタートとしての誤り)

私がシスコ社に入社した当初、ソーシャルリスニングやSEOなど、デジタル内のいくつかの領域をサポートしてくれる代理店を探していました。コンバージョン最適化について、我々はゼロから始めることはせず、数人で実験をおこない、Webサイト内の各領域を最適化していました。しかし、それらは、我々が望むものとは程遠いものでした。

そのため、社内で十分な力をつけるまでは、同じ代理店に最適化を依頼することは理にかなっていました。しかし、彼らは実験の観点からビジネスを前に進めることをせず、誤ったスタートとなってしまいました。

最適化の作業を開始するまでに多くの遅延が発生しましたが、数カ月後に彼らと仕事を開始することにこぎつけました。しかし、このときまでに、社内のMIO(Management、Insights、and Optimization)チームが作られ、最適化の作業を引き継ぐことになっていました。

社内で初のCROの役割を作る

この新しいチームでは、ウェブアナリストをCROの役割に再配置し、各ジャーニーとのテストパイプラインを作成しました。

ウェブアナリストは、定量的な分析をもって、インサイトを明らかにすることは得意でした。しかし、より定性的なデータソースを用いて、テストの機会を発見することには、まだギャップがありました。不幸にも、この体制をしばらく試した後、本格的なテストの機運を得ることはできず、振り出しに戻ることになりました。

私の意見では、コンバージョン率を最適化する担当者は、心からのマーケターである必要があります。Webサイトのテクニカルな側面、異なるユースケースで活用できる適切なWebサイトのコンポーネントについての知識、ユーザー体験、デザインシステム、ユーザーがWebサイトを回遊するために必要な説得力のある推進力、などを理解する必要があるのです。

それは、定量的なデータの理解だけではなく、人間的な側面を理解することが重要となります。

CROの専門機能の構築

同じ頃、チームの体制に大きな変更がありました。この変更は、もともと国ごとに割り当てられ、担当する国のサイトとローカライズされたコンテンツを管理していたデジタルマネージャーにも影響がありました。

この体制では、デジタルマネージャーが、業務の遂行にさらに重点を置くことを意味していました。そのため、彼らの専門性を活かすために、地域別のチームに彼らを組み込むことにしたのです。その結果、より包括的な戦略に沿った、最も必要とされる領域に、マネージャーを配置することができたのです。

デジタルマネージャーのうち3人は、Webエクスペリエンスチームに配属され、チーム(ユーザー体験、SEO、PM)内の幾人かのスペシャリストとともに、EMEAR(Europe、Middle East、Africa & Russia)全体で世界標準のジャーニーを展開することをサポートし、これらのジャーニーの最適化に対する責任を与えました。

さらにこの頃、我々は経験の豊富な最適化の専門家を雇いました。すぐに、我々の最適化の作業に大きな変化が見られました。最適なチームが作成されたことで、9ヶ月間で3つの実験を行っていたペースが、一気に38の実験を行えるようになりました。

また、テストの成功率が高まり、あらゆるテスト活動における一次指標と二次指標の数値が改善されました。

チームは「センター・オブ・エクセレンス」として機能し、部門をまたがった専門家によって、問題の特定、各ジャーニーにおけるテストパイプラインの構築、テストの実行、将来の実験に活かすためのフィードバックの作成などが行われました。

ジャーニーチームのミーティングではテストのアイデアが豊富に集まり、コンバージョンの最適化の担当者によって検証され、改良されるようになりました。そして、手当たりしだいのアプローチから、ビジネスのプロフェッショナルとより密接に関わる、戦略的なテストプランへと、移行していきました。

よくあることではありますが、次のステップに進む際、タイミングが極めて重要な役割を果たすことがあります。この横断機能的なチームがEMEARに配置されてからわずか数カ月後、全世界のシスコ社で、最適化と実験の方法を改善しようとする動きが見られるようになったのです。私はこのプロジェクトの人事を担当し、他の地域で最適化がどのように行われているかを調査し、テスト活動を拡大化させるための構造を提案しました。


■役に立つリソース

高いパフォーマンスを生み出す、グロースチームの作成方法
CROのエージェンシーを雇う方法と正しいプロセス
コンバージョン率最適化をあなたの上司に売り込む方法
コンバージョン最適化チームの構築方法とその構造
最適化の担当者を雇用する際に確認すべき、8つの特徴

※訳注:リンク先は全て英文です。

将来におけるワークショップ

グローバルな最適化のために、我々は目標を設定しました。

・年間に行うテストの回数を2倍にする
・実験プロセスを確立させる

これらの目標を達成させるために、適切な人材を適切な場所に配置することを可能とするチームの編成が必要でした。

当初、我々は3つのモデルを検討しました。

1.中央集権型
2.分散型
3.センター・オブ・エクセレンス

グローバルチームとリージョナルチームで働くメンバーからの意見を募り、EMEARでの実績がある、センター・オブ・エクセレンスを採用することにしました。

センター・オブ・エクセレンスは、連合体としての構造を持ちます。これは、このバーチャルなセンター・オブ・エクセレンスに適切な能力と専門性をもたせ、下記をサポートするというものです。

1.グローバル標準でのジャーニーの最適化
2.各国のWebサイトでのテストを反映した、リージョンとローカルに適した最適化

そして、センター・オブ・エクセレンスの設立に必要なあらゆる領域において、ワークショップを行いました。プレイヤーは誰か、彼らが高いレベルで行っていることはなにか、理想的なCROのプロセスはどのようなものか、などについて、センター・オブ・エクセレンスとは何かを伝えるためのプレゼンテーションを作成したのです。

このワークショップは、我々が必要としている能力や専門性(そして、いつ必要となるのか)を特定することが目的です。我々はRACIフレームワークを活用し、すでにある役割と、採用やスキルアップが必要な役割に対し、明確性を加えました。このフレームワークは、今後、誰が何を担当するのかを明らかにする役目も果たしています。

デジタルアナリティクス、コンテンツ、マーケティングの各部門から14人のメンバーがこのワークショップに集まり、Miroを使用し、リモート環境でも同一のドキュメンで作業を進めました。

このワークショップの後、私は重複する提案を全て削除し、我々が使用すべきフレームワークを作成するために、共通の箇所のみに注目しました。最終的なRACIフレームワークは下記となり、これは、ワークショップで作成されたRACIと、ステークホルダーとの数回の議論を元に作成されています。

これにより、我々が進みたいと思う方向がわかるようになりました。次に必要なことは、我々が現在いる場所を特定し、AポイントからBポイントへと移るためのロードマップを作成することです。


■役に立つリソース

どのようにして、CROのエキスパートはテストロードマップを構築し、維持しているのか
オンラインでのコンバージョンが明確でないWebサイトの最適化の方法
顧客中心主義の3つのブランドが行っている10のこと

※訳注:リンク先は全て英文です。

実験プログラムのロードマップを作成する

下記の4つの領域で我々のポジションを評価する、CXLの代理店speeroによるExperimentation Maturity Audit(実験成熟監査)を、我社の全社員が受講しています。

この監査は、以下の点において、非常に役に立っています。

・既存の能力を評価する
・用語と範囲の調整:個人のスコアをチーム横断で比較することで、言語や実験の範囲がどの程度一致しているかを評価する
・ギャップの発見:他と比べて不足している領域を特定し、優先度をつけて計画を立て、現状から望ましい状況へと移行する
・優先事項についての直接の会話

この監査から得られたインサイトを活用してロードマップを作成し、我々のビジネスの領域内での最適化の専門性を高めるために、最も影響の強い領域に注力しました。

我々はこのロードマップの詳細を肉付けしている段階であるため、ここで何らかの計画を共有することはできません。しかし、今後12ヶ月間は、苦しくもやりがいのある期間となることでしょう。

EMEARのセンター・オブ・エクセレンスは、適切な能力と人材が揃えば、このタイプのモデルがシスコ社ではうまくいくことを示してくれました。グローバルなレベルでの最適化を目的としたセンター・オブ・エクセレンスの設立は、地域別のセンター・オブ・エクセレンスの設立よりも、より複雑となるでしょう。しかし、我々は正しい方向に向かっていると、自信をもって言えます。

まとめ

我々のジャーニーはまだ始まったばかりですが、すでに良い進歩が見られます。全てを完璧にする必要はありません。また、前進するためには、何かを開始することが必要です。

正しいツールやパートナーを発見することは重要ですが、オープンで常に疑問を持つ姿勢が大切です。こうした考え方をビジネス全体に浸透させるためには、時間と労力がかかるでしょう。そのため、デジタルやマーケティングチームのように、実験のコンセプトと近しい箇所から、小さなスタートを切ることが重要です。

また、大企業で働いたことのある人にとっては、新しい働き方を導入することは非常に複雑であり、マネージメントの変更が鍵となることを理解してくれるでしょう。また、目標やロードマップを作成する際は、現実的であるようにしましょう。

大企業では、海を沸騰させるための詳細な計画を立てようとする傾向があります。これは、「開始する、早めに失敗する、インサイトを得る、反復する、常に最適化を行う」という、実験の大原則にそぐわないものです。

私は、チームとして私がいる場所に興奮していますし、誇りに思っています。そして、我々がどんな実験を行えるか、それが我々のユーザーや顧客にどのような影響を与えることができるか、それらを楽しみにしているのです。

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