グロースハックは2010年に提唱された新しい概念のため、明確な定義があるわけではありませんが、一般論を簡単にまとめると、「ユーザーから得られるデータを分析、精査し、売り上げやアクセス数など、商品やサービスの成長につながる仕組みを作る手法」といえます。
グロースハックの事例として有名なのは、DropboxやAirbnb、Twitter、Facebookなど海外の事例です。
例えば、オンラインストレージサービスを行うDropboxでは、友人を紹介してその人がユーザーになると、紹介者と友人の双方に容量をプレゼントする施策を行いました。この仕組みによりユーザー登録数が飛躍的に伸びたといわれています。
また、部屋を貸したい人と借りたい旅行者を結ぶAirbnbでは、Airbnbに投稿すると地域のコミュニティサイトにも自動的に投稿される仕組みを実装したことで、初期のユーザー数を大幅に増やしました。
グロースハックとこれまでのマーケティングとの最大の違いは、「商品やサービスを成長させる仕組みを作る」という点にあります。グロースハックを行う人材をグロースハッカーと呼びますが、具体的には次のような施策を行っています。グロースハックを成功させるためには、マーケティングの知識だけでなく、デザインやシステムの設計、UI/UXなどの知識や専門性などが必要となってきます。
グロースハッカーが行う施策
- 市場やユーザーのニーズを調査し、データを分析する
- 対象商品・サービスの課題を突き止める
- 課題について、仮説を立て、ABテストなどを用いて検証し、改善する(PDCAサイクルの高速回転)
- 積極的に商品やサービスの開発に関わり、売れるための仕組みを考え、実行する
- 少ない労力(時間・コスト)で成長を最大化する
グロースハックとマーケティングの手法は重なる部分もあるものの、目的や効果が及ぶ範囲が異なるといえるでしょう。
参考:仮説がABテストの成功を左右する!成果を出す仮説の立て方
グロースハックにおいては、商品やサービスを成長させるために、現在どのような課題があるのかを突き止めることが重要です。従来のマーケティングで重要指標として設定される「ユーザー数」や「CVR(コンバージョンレート=成約率)」だけでは、どこに課題があるのかが見えにくいという問題がありました。
そこで、グロースハックでは、ユーザー行動の状態を5つのステップに分解した「AARRR」というフレームワークが注目されています。「AARRR」は、ユーザー行動の状態を意味する5つの言葉の頭文字をつなげたもので、「アー」と読みます。
- Acquisition(獲得)
- Activation(活性化)
- Retention(維持)
- Referral(紹介)
- Revenue(収益)
5つのステップそれぞれで何が課題なのかを分析し、各ステップに合った指標を設定し、ステップごとに商品やサービスを成長させるための改善施策を展開します。
各ステップに合った指標の例としては、例えば、トライアルユーザーキャンセル率やユーザーリピート率、有料会員数などステップごとにさまざま考えられるでしょう。
グロースハックでは、部分に注目して逐次改善することで、全体の改善を実現させていきます。
グロースハックでは、データによる仮説検証や分析を重要視しています。しかも、先ほど紹介したように、ユーザー行動の状態ごとに、課題を検証し、改善していくことが求められています。
課題を検証して改善する際には、ABテストやUI/UXの比較・改善などさまざまな方法が用いられますが、中でもさまざまな場面でABテストを実施することは重要だといわれています。
ABテストとは、WebページやLPO(ランディングページ)、広告などにおいて、AパターンとBパターンといった異なる2つのパターン(2つ以上のパターンも可能)を用意し、効果を比較するテストのことを指します。
テストの対象となるのは、Webページや広告の画像、デザイン、レイアウト、商品のUSP(ユニーク・セリング・プロポジション)、商品やサービスの説明文などです。
また、効果を測る物差しとしては、広告のクリック率や、ページのエンゲージメント率、CV(コンバージョン)率などが挙げられています。
参考:ABテストで広告の改善をする方法
次では、ABテストの具体的な事例を見ていきましょう。
なお、ABテストの具体的な方法については、以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひ、ご覧ください。
【ABテストの方法】テストのメリットと効果的な実施方法まとめ
課題を改善するために、どのようなABテストを行えばいいのでしょうか?
商品購入ボタンの位置を変更するのか、商品の説明文、またはアクションボタンの工夫が必要なのか…など、ABテストの内容や対象となる部分は、それこそ千差万別であり、商品・サービスによって異なってきます。
ここでは、ABテストを用いた海外の改善事例について紹介するので、参考にしてみてください。
※リンク先で詳細を紹介しています
購入ボタンの改善でユーザーが2%増加した事例
「Jimmy Jazz」という流行ファッションを扱う販売店で、オンライン販売強化のために、モバイルサイトの購入ボタンに関するABテストを行いました。ほかのサイトの多くは、“CHECKOUT NOW(今すぐ買う)”などの行動を喚起するボタンを上下2カ所に置いていたため、自社サイトでも有効かをテストしたのです。
具体的には、「A:トップとページ下部に2つの購入ボタン(CHECKOUT NOW)」と「B:下部にだけ1つの購入ボタン(CHECKOUT NOW)」を比べるABテストを5週間実施したところ、購入ボタンが2つあるAバージョンが効果的だということがわかりました。Bバージョンに比べ、購入ページに進むユーザーが2%増加しました。
事例の詳細はこちら
アクションボタンの工夫で寄付額が23%増加した事例
慈善団体「Oxfam Great Britain」では、寄付金の額を増やす目的でABテストを実施しました。募金フォームを対象にして、「A:寄付のオプションなし」「B:Donate Now(すぐに寄付をする)という行動喚起(CTA)付きの寄付ボタン(寄付金額などオプションなし)」「C:シンプルな寄付フォーム」「D:寄付期間と寄付金額の設定ができるプルダウン+Bと同じ寄付ボタン」の4つのフォームを作成し、テスト期間中にアクセスのあった合計1万6000人を均等に分け、いずれかのバージョンを閲覧するようにしました。その結果、寄付期間と寄付金額が設定でき、寄付ボタンがあるDバージョンが最も効果があるとわかりました。
BバージョンはAバージョンに比べ、寄付額が131%多く、そのBバージョンよりも、Dバージョンは寄付額を23%も増加させたのです。
事例の詳細はこちら
オーディエンスへの説明の工夫でCVRが123%改善した事例
エンジニア・アーキテクチャソフトウェアを販売する「Autodesk」では、サイトの日本語版について、サイトの内容を日本人向けに微調整することで売り上げが向上するかどうか、ABテストを行いました。
「A:英語版サイトを直訳しただけのもの」「B:日本のオーディエンス向けに翻訳を工夫したもの+必要に応じてピクトグラムも追加」のうち、BバージョンはAバージョンよりCVRが123%も改善され、売り上げは138.3%の改善率でした。
事例の詳細はこちら
アクションボタンのコピーを変えて申し込み率が104%増加した事例
水処理のパーツやサービス、修理を提供する「Culligan」では、行動喚起のためのCTAボタンに表示するコピーが、オンラインの申し込み率にどう影響するかのABテストを実施しました。「A:Get A Quote(見積もりをする)のCTA」「B:Get Pricing(金額を確認する)のCTA」の2バージョンを用意し、テストしたところ、Aバージョンの方が、Bバージョンよりも申し込みが104%も増加しました。
事例の詳細はこちら