マーケッターとして私が最初に憶えたのがAIDAやAIDMAといった生活者の心理変容(購買)モデルで、広告の役割は商品に対する欲望(Desire)を喚起させる処、AIDMAの場合は商品の良いイメージを記憶(買う時はこれ!とMemory)させる処までと教えられた。
つまり実際の購買(Action)はマーケティング領域ではなく、セールスプロモーション領域という理解だ。
21世紀に入るとAISASの時代となり、AIDAやAIDMAは前時代の概念とされるようになった。確かにAISASはインターネットが生んだ新しい購買モデルで、Shareを倍化させるスマホやSNSの普及も目覚ましく、今やAISAS抜きで生活者の行動を説明することは困難とすら言える。
また、これを更に行動と態度に分けて捉えようという「デュアルAISAS」のアイデアも大いに興味深い。しかしAISASモデルの購買行動は、頻度・金額何れにおいても実際には主流と言い難いというのが現実だ。
従って売り手の立場にある私達マーケッターとしては、AISASには重大な関心を払いつつも、現実の購買モデルであるAIDAを捨て去る訳にはいかないのだ。
勿論amazonや楽天での購買に限定すれば、多少話は違うかも知れない。しかしそのECですら、実際にはAISAS型よりもAIDA型の購買の方が多い(むしろ増えている?)のだ。
そしてここにはもう一つの原因があり、それはAISASをマスターし、検索や比較サイトを自由に使い熟し、SNSを用いた拡散を普通に行うようになった現代人は、同時に余程嗜好性や関与度の高い特別な商品の購買の場合を除き、AISASが自分達のコスト(手間や時間)に見合わないことを知ってしまった(AISASをすでに卒業してしまった)からだ。
しかし企業の購買担当のように、それ自体が仕事であり義務である場合を除き、一般の生活者が「普通の買い物」をする際は、商品に魅力を感じ、その価格を安い、あるいは妥当と感じれば、わざわざ検索して他の商品と比べたり、同商品の最安値を探したりといった面倒な手続きは省き、目の前の商品をそのまま買う方が自然(楽で気持ちがイイ)からだ。
つまり、そもそもB2C領域の購買というのは「だって、欲しかったんだもん!」とか「実は何でも良かったから」とかといった、理性や経済合理性を超えた世界にあるからで、つまりB2C領域で、本気で(=泥臭く)売るなら、AISASベースの頭でっかちなアプローチよりも、直感に刺さるAIDAベースのアプローチの方が遥かに有利であり、現実的であるはずだ。
その2に続く...
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ライター紹介
後藤 一喜
(ごとう かずよし)
株式会社B2B2C代表取締役社長
金融機関・商事会社・出版社勤務を経て入社した通販会社・カタログハウス社にて同社創業社長・斎藤駿氏の薫陶を受けダイレクト・マーケティングの基礎を学ぶ。
その後、日本初のダイレクト・マーケティング専門広告代理店・電通ワンダーマンダイレクト社に移り、通信や金融、不動産や自動車、産業機械等様々なクライアントに対するサービスの経験を重ね2001年に同社執行役員、その後、電通及びKDDIの合弁会社・ユビキタス・コア社にてメディア・マーケティング部長、電通eM1社(現・電通デジタル)ディレクター室・室長を経て2008年に独立。
“売りたい魂”を持ったマーケッターであることを標榜。著書に『費用対効果が見える広告』(翔泳社)と『マーケッターとデータサイエンティストが語る 売れるロジックの見つけ方 』(宣伝会議)があり、後者はデータアーティスト代表取締役CEO・山本 覚氏との共著。