ウェブマーケティング会社がサンタに手紙を書いてみた

こんにちは!
数年前、ある非公開の情報ソースからショッキングなニュースを見つけた私は あまりにもショッキングなニュースだったため、読むのが嫌になるくらい(笑)長い記事を書いてしまいました。
なんと、世界中の子供の99%以上は本物ではないサンタ、つまり偽物のサンタからプレゼントを受け取っているというデータです。

子供の99%以上は偽物サンタからプレゼント

サンタが怠けているとか高齢で体の動きが鈍くなったなどが要因ではないようです。
DAで「PEST」分析をしたところ、どうも「S」(SOCIETY:社会的要因)に課題があるようです。下記のデータから、原因は一目瞭然なのではないでしょうか?

★☆★本物のサンタからプレゼントを貰えない2つの社会的要因★☆★

「世界人口がどんどん増えている」

国連:世界人工の統計

出典: United Nations
「世界のどこを見ても、読み書きができる子が増えています」

調査データ:若者の識字率

出典: Unesco Institute for Statistics

識字率の向上により、サンタに手紙を書くことが出来る、つまりサンタのターゲットなりうる子供が増えています。
このような社会的外部要因が変化する中、これまでと同様のプレゼント配布率をサンタに期待することは難しいです。

★☆★サンタとの接触ポイントの課題★☆★

この非常に厳しい状況の中で少しでも多くの子供が本物のサンタからプレゼントをもらうためには、伝統的な「手紙を書く」という手法では不十分なのではないかという疑念が有ります。

まず「効率」という点に関しても問題があります。
サンタが世界中から届く数千万~数億(子供人口と識字率から推定)もの封筒を自らの手で開くのは、物理的な開封に莫大な時間がかかると同時に「封筒の端っこで指切っちゃったら嫌だな」と心的ハードルをあげ1開封当たりの時間を下げかねません。決して良い労働条件とは言えません。

また環境保護という点でも問題があります。
手紙の原材料を得るために森林破壊が進み、さらに輸送に用いられる化石燃料の使用増による温暖化への悪影響も無視できません。

上記のような問題を抱え、デジタルマーケティングが台頭する今、「手紙」という旧来のコミュニケーションツールはもう時代錯誤のものになっているのではないでしょうか。

★☆★サンタに広告を打ちます★☆★

そこでDAは「手紙」が抱える効率面・環境面の問題を解決する新たなコミュニケーション手法を考えることにしました。
推敲の末、「サンタにバナー広告を打ちましょう」という結果になりました。
このことを社内メーリングリストで告知したのですが誰からも返事がなかったため、賛成1、反対0の賛成率100%で可決されました。
先ず実験的に実際に広告でサンタと接触できるかを我々が実証することにしました。しかしサンタに広告を打つためには解決しなくてはならないいくつかのマーケティングの課題が有りました。

課題1 そもそも本物のサンタはどこにいるか?

候補となる地域が世界中に驚くほどたくさん存在します。
ただし、本物のサンタの存在を特定するための重要な指標(各地のサンタに関する学論文数、トナカイの飼育数、サンタへの手紙数など)を基に本物のサンタが存在するであろう候補地を三つまでに絞りこむことが出来ました:

1.北極(米国、アラスカ州)
2.フィンランド北部 (Korvatunturi村)
3.スウェーデン中央部 (Mora市)

3に関しては問題が有ります。25年前、空手の合宿でスウェーデンMora市に訪れたことがあります。その時、素行の悪い地元の少年と一悶着あったことを今でも鮮明に覚えています。
スウェーデン人(あ、クリスマスプレゼントついでにばらしますが、実は私日本人とのハーフです)としては申し訳ない気持ちでいっぱいですが、本物のサンタがあの邪悪な土地にいるとはとても思えないのです。
断言できます:本物のサンタはスウェーデンのあの地域のものではない。
直感的な判断を確率モデルに入れることはベイズ推定の基本であり、決して恣意的な絞り込みではないことを主張したいです。

ついに候補地を二つに絞りすることが出来ました。もちろん本物のサンタは一人だけです。
本物のサンタは北極かフィンランド北部のKorvantunturi村のどちらかにいるはずです。

課題2 「いい子」を見つけられるか?

サンタと接触するためには広告主がサンタのターゲットである「いい子」である必要があります。
私のような中年男性では意味が有りません。

そこでまずは「いい子」を探さなくてはなりませんでした。
ところがこの件は当初の予想と異なり容易に解決しました。先日のマシュマロテスト合格した私の娘を広告主にしました。
我が娘とは言っても、マシュマロという誘惑を15分も我慢できる子は「いい子」に間違いありません。客観的なテストに基づく判断です。

課題3 サンタをどのように説得するか?

サンタに広告を打つためにまずサンタの分析を行います。主に三つのことが言えます。

1.サンタは高齢者です。
2.サンタは目があまりよくなさそうです。
3.サンタは12月中に数千万件の手紙を読まなければなりません。

上記を踏まえて、短めで「孫がかわいい心」をくすぐるメッセージとしました。

★~*~☆~*~★~*~☆~*~★~*~☆~*~★~*~☆~*~★
親愛なるサンタ。
私の名前はみあです。日本人です。4歳です。
今年、私はとってもいい子でした。本当です。
お願い、お願い、私に良いプレゼント下さい。
(可能であれば、リカちゃんの人形がほしいです)
よろしくどうぞ。
みあ
★~*~☆~*~★~*~☆~*~★~*~☆~*~★~*~☆~*~★

北極のサンタへのメッセージを英語で用意することは苦労しませんでしたが、フィンランド語は私でもちんぷんかんですので、仕方なく、Google Translatorで英字のテキストをそのままフィンランド語に変換しました。

Google翻譯

その後、翻訳したものを我が娘に直筆で書かせました。
小さな女の子からの汚い字は、普通の活字より何倍もの説得力があるのではと思います。DAはクリエイティブにぬかりが有りません努力がサンタに伝われば、それだけで十分だと思います。

簡単な作業ではありませんでした。2時間もかかり、私は「コーラのキャンディ」というインセンティブでこの難問を超えることが出来ました。
サンタの気を引く写真も用意いたしました。これもなかなか大変でした。憎たらしい系の写真が多かったのです↓

子供の写真

用意したテキストと写真を元に私たちは二つのランディングページを用意しました:「英語版」と「フィンランド語版」。

サンタ用のランディングページ"

英語版ランディングページ | フィンランド語版ランディングページ

本物のサンタに見せるための広告を8タイプも用意しました。「英語版」と「フィンランド語版」。

サンタ用のバナークリエイティブ

★☆★バナー広告の配信設定★☆★

マーケティングの課題が解決しましたので次はシステムの実装です。
今回はGoogle Adwordsでサンタが住んでいると思われている地域へピンポイントターゲティングを行いました。
北極 (North Pole)はそのまま出ていました。簡単でした。

Google Adwords広告ターゲティングー北極

フィンランド北部のKorvantunturi村は出ませんでしたが、Korvantunturi村が含まれている区域(Savukoski)が出ました。

Google Adwords広告ターゲティングーフィンランド

セットアップ完了。サンタへの集中的な宣伝キャンペーンを開始しました。
北極向けの広告は数時間で承認されました。しかし、なぜかKorvantuntturi村向けの承認には二日間もかかりました。

★☆★サンタ広告キャンペーンの途中結果★☆★

北極の広告に関して、問題はまったくありませんでした。
最初の日では表示回数が1,461回、クリック数が2件。概ね予想通りでした。なんだかうれしかった。

Google Adwords管理画面

ただし、Korvantunturi村向けのバナーは全く表示されていません。表示回数がない。

1日目

GA管理画面ー1日目

ゼロです。がっかりです。まあ、翌日状況が変わる可能性があります。

2日目

GA管理画面ー2日目

まだゼロ。おかしい…。

3日目

GA管理画面ー3日目

ゼロ。本物のサンタはいったいどこだ?!本格的な焦りを覚え始めます。
サンタは遊びほうけているのだろうか?いや、そんなはずはない。クリスマスは近いです。本物のサンタにとってはクリスマスがすべてのはずです。

ターゲティングの精度に問題がある可能性もあるので、ターゲティングしている地域を少し広げてみましました。

GA-フィンランドSavukoshiの地図

4日目

GA管理画面ー4日目

これは深刻です。本物のサンタはどこだ?ネットにつながっていないのか?
いやいや下記の統計を見る限りそんなことはありません。
フィンランドのインターネット使用率は世界トップクラスです。国民の90%近くがインターネットを使っています。

インターネット利用率・人工統計

あっ、思い出しました!バナー広告が表示されない要因がようやく分かりました。
サンタはロヴァニエミという町にいるはずです。子供の時に読んだ本を思い出しました。
サンタのおもちゃ工場がロヴァニエミにあるはずです。サンタは6万人の人口を誇るロヴァニエミという町にいます。

その町で彼は全世界から訪れている子供の世話をしたり、各国のジャーナリストに取材されたりします。
何よりも彼は地下にあると思われる巨大なおもちゃ工場の第一責任者として勤務しています。
サンタとして12月は想像を絶する忙しい時期です。

サンタの実家はKorvantunturi村で間違いないでしょうが、ただ、12月という忙しい時期に関してはロヴァニエミに常駐しているはずです。
Korvantunturi村に帰るひまがないということです。なぞが解けました。
私はさっそく、地域ターゲティングにロヴァニエミを追加しました。

GA-フィンランドRovaniemiの地図 border=

BINGOです。
1日足らずで表示回数が1万回弱、クリックは1件。本物のサンタからのクリックだといいですね。
今日までフィンランドサンタ向けの広告は40,180回表示されています。
クリック数は22回 (CTR=0.05%) 偽物サンタからのクリックがその数字には含まれていると思われますが、 許容範囲です。クリックは一つだけで充分。本物のサンタからの「ゴールデンクリック」一つで十分です。

ちなみに、実は私の母親はフィンランド生まれ・育ちです。それによって、私でもフィンランドの事情がある程度分かっていて、サンタの年間スケジュールまでも予測することができています。
参考程度ですが、だいたいフィンランドサンタの一年はだいたいこんな感じだと思います:

サンタの年間スケジュール

★☆★個人的不満:我が娘の広告がクリックされていません★☆★

一つのことが非常に気になります。というよりは私が少しムッとしています。
北極・ロヴァニエミ向けの広告は1万回表示されているにもかかわらず、クリック率はひどいものです。
(0.05%) バナー広告が10,000回表示された場合、たったの5人だけが広告をクリックしているという計算になります。

本物のサンタ、偽物のサンタでもかまいません。バナー広告の主人公は私の可愛い可愛い娘です。
あのマシュマロテストをパスした自慢の娘です。いくらなんでも、クリック率0.05%はないでしょう。
どう考えても。なぜこのようなことになっているのか考察してみました。

ロヴァニエミの住民は「プレゼント下さい」という広告に悩まされているという仮説

クリック率の低さを説明する一つの仮説があります。考えたくもないのですが、もしかして、私たちと同じようなことをやっている業者が世界のどこかにいるのではという仮説です。
ご存じのように、アメリカとかにはかなり突き抜けた人たちがいます。ロヴァニエミの住民は12月中に世界中の「プレゼント下さい!」というバナー広告の洪水に悩まされている可能性がゼロでは有りません。
私たちの「ブルーオーシャン」(競合がない)は実はサメ、ウミヘビだらけの「レッドオーシャン」だったのかもしれません。

PURPLE COW系の目立つ広告で勝つ

仮にレッドオーシャンだった場合、如何に差別化し競争優位を保つかが重要になります。
今回はPURPLE COWの発想で広告表現における競争優位を出すことにしました。
作家のSeth Godinの有名な本"PURPLE COW"に書かれている、「草原の中に牛がいても誰もびっくりはしないのですが、 仮にその牛が紫色だったら、皆がびっくりして反応する」というアイディアです。

この「PURPLE COW原理を使って」私はバナー広告をもうちょっとエキゾチックなものにしようと決めました。
「EXOTIC COOL JAPAN」で勝負します。 下記のチョコが昔からフィンランドのどこでも売られていることからもわかるように、フィンランドはどちらかと言えば親日国家です。

GEISHAフィンランドのチョコレート border=
Purple Cow by Seth Godin

今のバナー広告のテキストメッセージをフィンランド語や英語ではなく、漢字に変えました。
ただ、「サンタ!プレゼント下さい」というようなカタカナ中心のメッセージだとインパクトが少し弱すぎるかなという風に感じました。
もうちょっと入り組んだ、難しい漢字のウケがいいのではと思いました。
フィンランドにも北極にも何を書いても地元の人に意味が伝わらないはずですので表現は自由です。多少乱暴でも文字さえかっこよければそれでいいのです。
「内容」より「表現」が重要です。メッセージを「サンタ!苦理巣魔酢だよ!」にしてみました。

サンタ用の新バナー広告

しかし、予想と違って、バナー広告のメッセージを変えることで対して大きな差は生じませんでした。
日本文化をしっかり理解している社員が多く働くDA社内で評判が悪かっただけでなく、世界的にも外してしまいました。四面楚歌です。

何にしても今回はPURPLE COW効果なしです。来年は広告の中に紫の牛を入れようかと考えています。諦めます。我が娘に注目してほしいという個人的な欲求を会社の企画で満たそうとした私が悪かったです。
北極の人とロヴァニエミの皆様はクリスマスの準備で忙しいでしょうね。クリスマス料理を作ったり、掃除をしたり、氷水に入ったり、ライフルの練習をしたり。
バナー広告を見るひまはないでしょう、きっと。

★☆★肝心のプレゼントは届いたのか?★☆★

現在の時刻(12月24日21:00 JST) にはプレゼント納品という情報は入ってきていません。
ただ、希望はまだあります。24:00までにはあと3時間です。
今回だけはサンタの力を信じたいと思います。

万が一、予想と違って、サンタが表れなかった場合にはバックアッププランが用意されています。
サンタが来ない場合、私はこの世の中の99%のお父さんたちと同じく、恥ずかしくても、サンタの格好をするつもりです。
そして、あるECサイトで購入したそのリカちゃんの人形を我が娘に渡すつもりです。

私とこの世の中のお父さんたちの気持ちはどこでも一緒のはずです。本当のサンタが来ようが来るまいが、子供の幸せ一杯の笑顔は見たいです。見たいです。
去年、娘からの鋭い指摘がありました。
「サンタはパパと同じ靴下をはいてた~」と言いました。(今でも時々言っています。)
今年は細心の注意を払って、靴下を変えてからサンタの格好をする予定です。

皆様、ここまで読んでくれて、本当にどうもありがとうございました。
メリークリスマスです!

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