eコマースでの買い物体験において、発送や配達は最も重要な要素である。送料や利便性によって、消費者が実店舗で購入したいと思うかオンラインで購入したいと思うかも分かれる。
しかし商品発送プラットフォームTemandoによる最新のレポートによれば、オンラインの小売業者は発送について売りを説明することに失敗している可能性があるという。どうやら、発送について間違ったところに重きを置いているらしい。
レポートによれば、イギリスの買い物客の86%が『すぐに届く』ことよりも『無料で届く』方が好ましいとしている。しかし、小売業者の多くは『すぐに届く』ことこそ消費者にとって大切であるという風に考えている節があるとされているのだ。通常配送を無料で行っていると売り出している小売業者はたったの27%に留まり、およそ25%は発送料が無料であることを『売り』にしていないという。
これを踏まえた上で、大手オンライン小売業者がどのようにサービスをプロモーションしているかについて見ていこう。もしかすると、そうした例の中にも改善点が見つかるかもしれない。
【事例1】Argos
Argosが売りにしているのは『すぐに届くこと』である。
そのFastTrackサービス(すぐに届く・追跡可能)はウェブサイト上で強調されており、いつでも商品を注文すればその同日中には商品が手元に届くということを売りにしている。
3.95ポンドという金額は無料発送を好む買い物客にはむしろマイナスポイントになりそうだが、Click and Collect(店舗など都合の良いところで受け取るサービス)も用意されており、これを利用すれば、すぐに、しかも無料で商品を手に入れることができる。まさに良いとこ取りというわけだ。
ちなみにArgosでは、ある種の商品については通常の無料発送も承っている(こちらはおよそ4日を要する)。しかしこのオプションは分かりにくく、ArgosはFastTrackのオプションを売りにしたがっていることは明らかだ。
【事例2】B&Q
B&Qのページを見てみると、Argos商品詳細ページよりも透明感がなく分かりにくい。翌日配送や通常配送の価格は、会計時に示されるだけで、それ以外では『発送』についての説明ページでしか確認できないのである。
その上、無料という言葉を使っておらず、またArgosのような受け取りサービスも記載はない。
一方、50ポンド以上の買い物に対しては送料無料というのは分かりやすく告知されており、大量に、あるいは大きな買い物をする人にとっては効果的なアピールになっている。
また個人的には、カテゴリーページのアイコンも良いと思う。実店舗で同様の商品を購入できるかどうかが一目瞭然になっているのだ。
【事例3】John Lewis
John Lewisは配達サービスについてスピードよりも無料のサービスであることを売りにしている。更に通常配送の他、受け取りサービスにも対応している。
Temandoの調査が正しければ、顧客の大多数は低価格または無料の発送を好ましいと思うはずなので、この作戦はきっと奏功するだろう。
しかし、無料発送のためには50ポンド以上の買い物をしなければならないという点について考えると、『ならば実店舗で買い物を』と思う人もいるだろう。これは注文価格を向上させるために用いられるテクニックだが、実店舗で買い物をする前にオンラインストアを確認するというトレンドがあることを考えると、オンラインでの顧客を獲得し損なうことに繋がってしまう場合もあるかもしれない。
【事例4】Tesco
2017年の始め、Tescoは即日配達のサービスを英国で展開すると表明した。午後1時までに注文すれば食品が午後7時には届くというサービスである。
当然ながら、オンライン上ではこのサービスを強調し、暮らしがもっと便利になるという触れ込みでプロモーションが行われた。
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このサービスの発送費は3〜9ポンドで、デリバリーサーバーサービスのメンバーは期間限定で無料利用することができた。Temandoによれば、本当に便利なものを求める顧客にとっては、価格は問題ではないという。その調査によれば、即日配達には追加費用を払っても構わないという消費者は多く、女性は56%、男性は57%がこれを肯定した。
Amazonのような大手がこうしたサービスの導入を進めつつあることで、同様のサービスを導入しようとしているスーパーマーケットは少なくない。
【事例5】River Island
同社は、オンラインでの顧客転換率を高めるために配達に関するプロモーションを頻繁に行っている。例えば、期間限定で国際配達が無料になることもある。
目立つバナーとクリエイティブなタグをホームページに表示するのは、短期間の販売を増加させるために無料配達を利用する効果的な好例であると言える。
River Islandもまた、速さよりも安さに力を入れているように思える。受け取りサービスも無料で、無料プロモーションが終了しても100ポンド以上買い物をすれば無料発送になることも分かる。
一方、返品に関する情報が分かりにくいのはマイナスだ。女性のうち15人に1人以上は、返品無料が約束されていないとオンラインで買い物はしないとしている。これは顧客転換率に悪影響を与えかねない要素だ。
【事例6】M&S
Marks & Spencersは、ホームページ上のトップで配達情報について分かりやすく強調するという手法をとっていない数少ないオンライン小売業者のうちの1つだ。ページの最後までスクロールしてようやく、配達に関する情報を見つけることができる。
しかしそのサービスの説明は分かりやすく、『無料』という言葉があちこちにあって、顧客の注意を惹きつけることに成功している。
その商品ページを見ても情報は簡潔で分かりやすく、送料無料であることは分かりやすく視界に飛び込んでくる。
実際の配送サービスについても、標準的な配達から日にち指定、50ポンド以上なら無料、受け取りサービスなどオプションは多種多様だ。この豊富なサービスについてトップで告知する方がより効果的だと思うが、どうだろうか。
【事例7】Clarks
Clarksでは、特別なコードを入力することで通常発送が無料になるというキャンペーンを行っていることがある。River Islandの戦略と似ているが、コードを用いることにより、全体の工程にも変化が生じている。
また、このキャンペーンはホームページで告知されており、特別なコードを得られるのは特別な人だけというわけでもない。
その狙いは、『特別な体験をすることができた』という感覚を消費者に与えるところにあるのだろう。しかし、多くの人は既に通常発送が無料であることを当然のように感じており、そこに特別な価値を感じるということはなさそうだ。
【事例8】Warby Parker
Warby Parkerは顧客第一を謳うサービスを提供しているが、米国やいくつかの国に対する発送を無料とすることでその立場をより確実なものにしている。
この無料発送はそれ自体が魅力的だが、『自宅で試す』というサービスも相まってより『顧客第一』であることが感じられる。
このサービスでは、フレームを5つ選び、それを5日間試すことができる。そして購入したい1本だけを残して、残り4本を返送するのである。
これはもちろん、同社にとって決して安い出費ではない。しかし無料発送の価値を理解しているWarby Parkerは、口コミ効果を高めることにより、顧客の信頼やロイヤルティを確かなものにしているのである。
【事例9】JD Sports
JD Sportsもまた、期間限定のオファーとして無料発送を売りにしているブランドである。カウントダウンタイマーを利用して焦らせるようにしているのは、なかなか効果的な作戦だ。
そのプロモーションはウェブサイト全体で見られ、カテゴリーページと商品ページでは無料発送が特に強調されている。
Temandoによれば、発送というのは商品の配達のことだけではないという。例えば注文の追跡といったファクター、安全な場所に商品を保管といったオプションもまた重要なのだ。JD Sportsは注文を追跡できる機能を取り入れており、これによりユーザー体験をより高めている。
【事例10】ASOS
最後に紹介するASOSは、顧客の信頼感を確実に得るために信頼できる配達オプションを用意している。そのプレミアムデリバリープログラムは年間9.95ポンドかかるが、いつでも翌日配達や受け取りが可能になる。買い物の頻度が一定である場合には非常に魅力的なオプションだ。
また、サービスのプロモーションにも手慣れた様子である。そのマーケティングコピーの中には、速くて無料であるということが分かりやすく強調されている。
その他の面では、色々な選択肢を与えながら事前情報も提供することで、買い物客が思わぬ出費に驚いて買い物が完了しないということがないように配慮している。
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