モバイルサイトの収益に大きな変化をもたらすのは容易なことではない。しかし、ユーザーのカスタマージャーニーを把握することで、その第一歩を踏み出すことはできる。
ポイントとなるのは、その一連の流れ(ジャーニー)を小規模なCV(マイクロコンバージョン)に分解し、これらをベンチマークとして優先順位を考え、大きなチャンスをモノにするための足がかりとすることである。
この時に役立つ「Biglight Mobile Benchmark」は、小売業者が自身のモバイルサイトにおけるCVR(コンバージョン率)について、より広範の小売業市場と比較して把握するための図表である。
視覚的にも分かりやすく、「モバイルサイトの最適化に関する課題はどれくらい困難か」と「その課題の解決はどの程度火急か」という2つの重要な質問に答えるためにすぐに実践できる方法として有用だ。
多くの小売業者にとって、そのモバイルサイトの最適化プログラムに投資するために必要な予算を確保する上でも、この手法は有効であるとされている。
しかしもちろん、簡単なことばかりではない。実際にCVRをモバイルサイト上で改善しようとすれば、多くの課題が降りかかることにもなりえる。すると次に考えるべきは、「何から始めれば良いか」ということだ。
ここで重要になるのが、カスタマージャーニーのマッピングとよりマイクロなコンバージョンのベンチマーク化である。特に注目するべきプロセスを特定し、それにより最適化に対する投資が効果的なところに使われるようにするのである。
更に『どこに金を掛けるべきか』ということを理解することで展開を迅速に行うことができ、投資に対するリターンもより早く現実化できる。
以下、その具体的な流れについて解説したい。以下のプロセスは、私たちが実際に多くのクライアントについて実施して成功しているプロセスである。
重要: ユーザージャーニーを理解する
当たり前のことだが、ユーザーのニーズやそのジャーニーを理解せずしてモバイルサイト上でのユーザー体験を最適化しようというのは無理のある話だ。
実際のところ、モバイルサイト上でのユーザーの振る舞いはとても特徴的である。その頭の中にあるのはおよそ、商品を今すぐ欲しいという思いだ。最近私たちがデジタル代理店Biglightと共に行った大規模研究により得られたデータもまた、そうしたことを示している:
- 人々は最も簡単なルートを選ぶ。商品をすぐに手に入れるためだ。
- 関係無いと感じるコンテンツについては迂回したり無視したりする。
- 商品を厳選するため、取捨選択に相当の時間を掛ける。
- 強い興味関心をもって画像一覧をチェックする。
- 情報過多だと商品説明は読まれない。
- 会計プロセスに入ったということは、購入について本気の意志があると言える。
ユーザーは、商品の購入を考え、慣れ親しんだデバ気にするべきかということが読み取れるのである。
実際、カスタマージャーニーを追ってみるとその道程は至極単純で、2つに大別できる。それぞれがそれぞれの理由から危うさを持っているこの2つのジャーニーを、ここでは『カートページに商品を入れるまでのジャーニー』と『カートページ内のジャーニー』の二つジャーニーと呼びたい。
カートページに商品を入れるまでのジャーニー
全体のジャーニーにおけるこのパートで考えるのは、サイトの閲覧行動全てである。この成功指標で重要な要素として、「サイトにやってきたユーザーのうち、カートページを(何かをカートに入れた状態で)開いたユーザーの割合」がある。これを私たちは、『カートページ追加率(Browse-To-Basket Ratio)』と呼んでいる。
このカートページ追加率は、興味を持っている商品の発見がどの程度容易か、その購入の動機付けに成功しているかという、サイトのメインパフォーマンスがどの程度発揮されているかを示す上で有用な指標である。
また、これはサイト全体のCVRを知る上での指標にもなる。例えば、カートページ追加率が3%だったなら、全体のCVRはこの値を超えることは決してない。
更にほとんどのウェブサイトでの追跡が容易であることから、サイト間の比較が簡単であるという利点もある。現在のところ、この値が10%に近ければ『良い』評価になり、5%を下回るようであると『心配』な評価であると考えられている。しかし、他にも重要なポイントはある。
カスタマージャーニーを分解すれば、それは以下のようになる:
全体に対するこの部分における主な課題としては、ナビゲーション、販売戦略、商品一覧ページへできるだけ摩擦やノイズを少なく誘導するためのコンテンツ、また、検索機能における問題が挙げられる。ここでもまた、絞り込み検索が容易であり、表示される内容が顧客にとって自分に関係があると感じられるものであり、検索結果の表示が速いということが重要になる。そうでなければ、ユーザーは商品詳細ページには進んでくれない。
商品詳細ページにたどり着いたら、ユーザーはそこで時間を使う。画像をよく確認し、レビューを読み、簡潔なものであれば関連する情報も読み込む。関連するコンテンツを含むエンゲージメントであれば、CVRや平均注文額が向上するという事実もある。
全体を通してみてみると、この段階のジャーニーにおいては、サイトでの滞在時間とマイクロコンバージョンの間に直接的な相関関係が明らかに見て取れる。
言い換えれば、課題となるのは、ユーザーをすぐに商品ページへと誘導し、その商品ページで必要な情報を与えるということによりユーザーを惹きつけ続けることであると言えるだろう。
カートページ内のジャーニー
カスタマージャーニーの後半では、カートページを確認したユーザーのうちどれくらいが実際に購入を完了したかを確認する。これを『カートページ内のCVR』とここでは呼ぶことにしたい。
カートページに入れるための閲覧をしている状況で重要になるのは、エンゲージメントやモチベーション(動機付け)である。これとは異なり、カートページからのCVを考える上では主に維持と完了がポイントとなる。つまり、あるステップから次のステップに進んでいるユーザーを見ることで、その成功の指標とすることができる。
このジャーニーの開始点は、会計プロセスの開始時でなく、カートページを起点としたい。異なる会計プロセスを持つサイト間での比較や、ログインしたユーザーには異なる画面を表示するようなサイトでの比較をより有意義にするためである。それを踏まえて一般的に考えると、以下のような要素が考えられる:
一般的には、カートページの画面と会計画面のトップとの間で最初の脱落が起こり得る。これカートページを購入以外の理由(実店舗での買い物メモとして使っているなど)で利用している人や、結局買わないことにしたという人が居るためだ。こうした脱落があることは決して珍しくないが、サイトによってはこの割合に大きな差が生まれていることもある。
ともすれば、最適化をする余地と価値はありそうだ。
しかし、一度ユーザーが会計プロセスに足を踏み入れた場合、会計を完了する本気の意志があるらしいということ、そしてそのジャーニーにおける個々のステップでのマイクロコンバージョン率が95%以上を超える場合もあるというデータはある。この場合に重要なのは、フローが直感的で分かりやすいことだ。
この段階においては、時間とCVRの間に負の相関が見られる。会計プロセスをより簡単に、すぐに終わるものにすれば、それだけCVRも上がるというわけだ。
実際に、脱落が多い(CVに失敗する)ステップを見てみると、成功するステップに比べて長さが2倍になっている。ユーザーが困惑すればそれだけCVRは下がるという証拠だ。
とは言っても、これを守れば常にCVRが高くなるというわけではない。ベンチマークデータ(次項を参照)によれば、平均的なカートページのCVRは40%以下であり、個々のCVRは26〜60%と差があるのである。
ともすれば、小売業者にとって、そのモバイルサイトの会計プロセスにおけるユーザー体験にはまだまだ改善の余地があるとも言えるだろう。
モバイルジャーニーのベンチマーク化
カスタマージャーニーがどのようなものかを理解するのは大切だが、ここで同じく重要なのは自身のサイトのパフォーマンスがどの程度のものかということをはっきりと把握することだ。マイクロコンバージョンにおける問題が何処にあるのか、そして最適化の大きなチャンスの特定である。
「Biglight Mobile Benchmark」が重要になってくるのはここだ。以下の表が示すように、ジャーニーの1つ1つのステップにおいて比較することが可能になっている。サイト閲覧からコンバージョンまでの流れがマイクロコンバージョンにより示され、それぞれのステップから次に移動しているユーザーの割合も把握できるのである。
このようにして全体を俯瞰することで、問題の発生箇所と改善の余地がある場所を把握することができる。
例えば以下の小売業者6を見てみると、カートページ追加率が10%となっているが、カートページからのCVRが29%となっている。
一方小売業者5を見てみると、全く逆の問題を抱えている。
次にするべきこと
こうしたベンチマークの設定はスタートラインであるに過ぎないが、スタートダッシュを切れるスタートラインだ。
「何から始めるべきか」ということを考える上でシンプルかつ有用であり、「次に何をするべきか」も自ずと分かってくる。結果を短期間で得ることも可能になるかもしれない。
これを可能とするために必要なのは、開始時点で大きな改善の余地がある箇所を特定し、ユーザビリティをテストすることにより更にその集中を研磨することである。ジャーニーにおける特に重要なステップを中心として、データから分かること以上の『何故』を理解し、それに対して行動を起こしていくことが重要だ。
もちろん、(当てずっぽうではなく)実際に得られた知見や情報をもとにして、それぞれの重要な分野についてABテストやその他のアプローチで調査をしていくということが最終的には大切になる。また、それぞれの分野においてより広範かつ規模の大きな別の選択肢をテストすることもまた、成功する上で重要になるだろう。
こうしたことを実践していくことで、複数の最適化の流れを特定の測定可能なゴールへと導くような、それぞれを準備段階から(長期的な開発サイクルによるものではなく)週や月単位での結果を出すようなものにする、そんな実験ロードマップにより、高速展開が可能となっていく。
モバイルが頭角を現しつつある市場に置いて、確実性とペースアップを同時に実現していくことが、成功と失敗の命運を分けるのだと言えるのかもしれない。
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